名古屋高等裁判所 昭和26年(う)1664号 判決
本件起訴状の罪名に関する記載が論旨摘録の様になつていることは論旨の通りであるが刑事訴訟法第二百五十六条は起訴状の記載要件を一、被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項二、公訴事実三、罪名と定め更にその罪名は適用すべき罰条を示して記載しなければならないと規定しおり右の規定から明かなように起訴状の罪名の記載としては所謂罪名のみならず必ず罰条を伴わなければならないのであるから起訴状の罪名は所謂罪名と罰条とを一体としてこれを観察することを要し本件起訴状のように罰条の記載があつて所謂罪名の記載が欠けている場合は起訴状の罪名の記載が不完全であるといえるにしても法の要求する罪名が全然記載されていないものとはいえない然も本件起訴状の訴因と罰条との対照からその所謂罪名が物価統制令違反であることは疑義を挾む余地なく容易に推知し得るところであり現に原審の弁護届にも本件の罪名を物価統制令違反と表示してあるのみならず原審審理の経過において本件起訴状の罪名欠缺について何等異議の申立がなされた形跡のない点から観て被告人が本件の罪名が物価統制令違反であることを充分認識していたものであり且つ一件記録を通じてその罪名の欠缺が被告人の防禦権に不利益を及ぼしたものと認められる節も存しないので罰条の誤に準じて本件起訴の効力に影響がないものと解すべく又所論の本件逮捕状の罪名の如きは右の判断を左右し得べきものではないからこの点の論旨は採用の限りでない。
同上第二点について。
原判決によれば原審が本件認定の資料として検察事務官作成の鑑定部長中居、検査官佐藤、小島の犯則物件鑑定書の謄本を挙示していること及び該謄本にはその作成の月日の記載のないこと並びにその原本に作成者の認印と思われる三箇の印影がある丈で作成者の署名若くは記名もなくその所属官庁名や資格等の記載のないことが推知せられることは所論の通りであるが該謄本に対しては被告人から証拠とすることの同意がなされておるのであり且つ一件記録を通じて知られるその作成の情況から考えて論旨に拘らずこれを証拠とすることが相当であると認むるに充分であつて原審がこれを証拠としたことは何等違法でない且つ該謄本を原審挙示の他の証拠特に佐藤春夫の検察官に対する供述調書と綜合すれば本件砂糖の規格が分密白糖であることを認定するに十分であり従つて論旨は採用するに足らない。